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研究交流

線維肝におけるAFP陽性細胞はどこにいて何をしているのか?

中野 泰博、稲垣 豊
東海大学大学院医学研究科マトリックス医学生物学センター

はじめに

Alpha-fetoprotein(AFP)は、肝発生における肝前駆細胞や肝癌細胞のマーカー分子として広く知られている(1)。また、重度な線維肝の患者の血清中でも検出されるが(2)、その産生細胞がどこにいて何をしているかは不明瞭であった。
線維肝の再生では、健常な肝臓のそれと比べ、成熟肝細胞の細胞増殖能が顕著に低下しており(3)、しばしば肝再生不全を生じることが臨床上のひとつの課題である。また、線維肝の再生時には、肝前駆細胞が動員され、再生に寄与する説が提唱されているが(4)、その詳細は分かっていない。そこで我々は、この肝前駆細胞がAFPを産生していると考え、AFP陽性細胞の同定と機能について解析した(5)。

1. 線維肝におけるAFP陽性細胞は線維束に沿うように存在する

我々はまず、マウスに対して四塩化炭素(CCl4)を反復投与することで、線維肝モデルを作製した。その肝組織を解析したところ、線維束を形成するαSMA陽性筋線維芽細胞に隣接するように、AFP陽性細胞が多数認められた(図1A)。
次に、肝前駆細胞(Sox9, CD44, EpCAM)、肝細胞(Albumin, Hnf4α)、胆管細胞(CK19, Hnf1β)各々のマーカー分子と二重染色した結果、AFP陽性細胞はSox9+/-AlbuminlowHnf4α+(他は陰性)であり、肝細胞に近い特徴を示していた。また、AFP産生細胞の多くはPCNAが陽性であり、増殖能の高い細胞であることが明らかになった(図1B)。


図1. マウス線維肝におけるAFP陽性細胞の同定
(A)αSMAとAFPの二重染色(蛍光免疫染色法)。(B)AFPと種々のマーカー分子との二重染色(矢頭はAFPとマーカー分子の共陽性を、矢印はAFP単独陽性を示す;同一視野でのAlbumin単染色を含む)。(参考文献5より改変して引用)

2. AFP陽性細胞はJagged1/Notchシグナルの活性化によって動員される

 Sox9の発現は、Notchシグナルによって直接的な制御を受けることから(6)、Notchリガンドの発現を解析したところ、線維肝ではJag1遺伝子の発現が上昇していた(図2A)。また、Jagged1の発現はαSMA陽性筋線維芽細胞に強く認められ、それに隣接するAFP陽性細胞にはNotchシグナルの活性化指標であるHes1が発現していた(図2B)。これらのことから、AFP陽性細胞には、筋線維芽細胞のJagged1をリガンドとしたNotchシグナルが活性化していることが示唆された(図2C)。


図2. 筋線維芽細胞のJagged1発現とAFP陽性細胞のNotchシグナル活性化
(A)定量RT-PCRによる正常肝および線維肝におけるNotchリガンドのmRNA量解析。(B)正常肝および線維肝のJagged1とHes1の発現。(C)AFP陽性細胞と筋線維芽細胞に発現する分子。(参考文献5より改変して引用)

 次に、Mx-CreによってJag1遺伝子を後天的に欠損させた(Jag1 cKO)マウスに対して、肝線維化を誘導した。その組織像は、対照マウスと比べ、線維化の度合いや細胆管の増生には差を認めなかったが、AFP陽性細胞数およびAfp遺伝子の発現量が顕著に減少していた(図3A-C)。これよりJagged1/NotchシグナルがAFP陽性細胞の動員に必要であることが示された。


図3. Jag1 cKOマウス線維肝におけるAFP陽性細胞の消失
(A)対照マウスおよびJag1 cKOマウスの線維肝の組織学的解析。(B)染色面積比(Sirius red)および単位面積当たりのAFP、CK19陽性細胞数。(C)定量RT-PCRによるCol1a1AfpKrt19のmRNA発現量解析。(参考文献5より改変して引用)

3. AFP陽性細胞は活発に増殖することで線維肝の再生に寄与する

 肝線維化を誘導したJag1 cKOマウスに対して、70%部分肝切除を行い、その再生能を評価した。線維肝切除から7日後、Jag1 cKOマウスは対照マウスに比して、生存率が有意に減少していた(図4A)。次に、切除後2日の肝組織を採取し、AFP陽性細胞とその増殖性について解析した。対照マウスの肝組織にはBrdU陽性のAFP陽性細胞が多くみられ、これらは肝内で増殖する細胞の主体を占めていた(図4B, C)。一方、Jag1 cKOマウスの肝組織ではAFP陽性細胞がごく少数しか存在せず、これにより全体のBrdU陽性細胞も顕著に低下していた(図4B, C)。このことから、AFP陽性細胞は、自身の細胞増殖を活発にすることで、線維肝の再生に寄与することが示された。


図4. 線維肝再生におけるAFP陽性細胞の役割
(A)対照マウスおよびJag1 cKOマウスの線維肝を70%部分切除した後の生存曲線。(B, C)部分肝切除から2日の肝組織におけるAFP陽性細胞数および BrdU陽性細胞の比率。(参考文献5より改変して引用)

4. Notch2シグナルの活性化が成熟肝細胞をAFP陽性細胞へと誘導する

 マーカー分子の発現などから、AFP陽性細胞の起源は成熟肝細胞だと考えられた。実際に我々は、活性化肝星細胞と共培養することで、成熟肝細胞からAFP陽性細胞を誘導できることを明らかにした(図5Aおよび図5B, CのControl)。次に、Jag1 cKOマウスより単離した活性化肝星細胞を用いて同様のin vitro実験を行ったところ、Afp遺伝子の発現誘導は完全にキャンセルされた(図5B, Jag1 cKO)。さらに、Alb-CreによるNotch2欠損成熟肝細胞を用いた際も、この誘導は起こらなかった(図5C, Notch2 cKO)。
また、生体内でも同様の誘導が起こるかを検討するため、正常マウスに対して、Notch2細胞内ドメイン発現プラスミド(NICD2-IRES-EGFP)をハイドロダイナミックインジェクションによって、成熟肝細胞へ遺伝子導入したところ、一部の成熟肝細胞からAFP陽性細胞が誘導された(図5D)。


図5. Jagged1/Notch2シグナルによる成熟肝細胞からのAFP陽性細胞の誘導
(A)静止期肝星細胞(Quiescent-HSC, Jagged1陰性~弱陽性)または活性化肝星細胞(Activated-HSC, Jagged1強陽性)と成熟肝細胞(Hep)の共培養。活性化肝星細胞との共培養によるAFP+Sox9+細胞の出現。(B)Jag1欠損肝星細胞と対照マウス肝細胞との共培養におけるAfpのmRNA発現変化。(C)対照マウス肝星細胞とNotch2欠損成熟肝細胞との共培養におけるAfpのmRNA発現変化。(D)正常肝へのNICD2-IRES-EGFPの導入によるAFP陽性細胞の誘導。(参考文献5より改変して引用)

おわりに

 線維肝における筋線維芽細胞で発現するJagged1は、隣接する成熟肝細胞のNotch2シグナルを活性化させ、これらをAFP陽性細胞に変化させた。また、AFP陽性細胞は、線維肝の再生時に活発に増殖し、再生に寄与することが示された(図6)。


図6. 本研究のまとめ
線維肝におけるAFP陽性細胞は、Jagged1/Notch2シグナルによって動員され、肝再生時には自身の細胞増殖を活発にすることで、線維肝の再生に寄与することが明らかとなった。

謝辞

 本研究の共同研究者の皆様、日々深いディスカッションを重ねてくださる川口義弥先生(京都大学iPS細胞研究所)に、この場を借りて深くお礼申し上げます。

参考文献

  1. Miyajima A, Tanaka M, Itoh T. Stem/progenitor cells in liver development, homeostasis, regeneration, and reprogramming. Cell Stem Cell 2014;14:561-574.
  2. Liu YR, Lin BB, Zeng DW, Zhu YY, Chen J, Zheng Q, Dong J, et al. Alpha-fetoprotein level as a biomarker of liver fibrosis status: a cross-sectional study of 619 consecutive patients with chronic hepatitis B. BMC Gastroenterol 2014;14:145.
  3. Kuramitsu K, Sverdlov DY, Liu SB, Csizmadia E, Burkly L, Schuppan D, Hanto DW, et al. Failure of fibrotic liver regeneration in mice is linked to a severe fibrogenic response driven by hepatic progenitor cell activation. Am J Pathol 2013;183:182-194.
  4. Alison MR, Islam S, Lim S. Stem cells in liver regeneration, fibrosis and cancer: the good, the bad and the ugly. J Pathol 2009;217:282-298.
  5. Nakano Y, Nakao S, Sumiyoshi H, Mikami K, Tanno Y, Sueoka M, Kasahara D, et al. Identification of a novel alpha-fetoprotein-expressing cell population induced by the Jagged1/Notch2 signal in murine fibrotic liver. Hepatology Communications 2017.
  6. Zong Y, Panikkar A, Xu J, Antoniou A, Raynaud P, Lemaigre F, Stanger BZ. Notch signaling controls liver development by regulating biliary differentiation. Development 2009;136:1727-1739.

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