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研究交流

非アルコール性脂肪性肝炎発症におけるToll-like receptorの役割

三浦光一
秋田大学医学部附属病院 肝疾患相談センター

はじめに

非アルコール性脂肪性肝炎(以下NASH)は肝臓に過剰な脂肪が蓄積し、炎症や線維化、最終的には肝癌を引き起こす疾患である。日本でもNASH患者が増加しつつあり、メカニズム解明とそれに基づいた治療法の開発が急がれる。

NASHを含めた生活習慣病では腸内環境の変化が疾患に大きな影響を及ぼすと考えられている。ここではその詳細は割愛させていただくが、例えば、腸内細菌叢の変化や腸管壁の透過性亢進により、腸内細菌由来物質が門脈を介して肝臓に達し、NASHを悪化させる可能性が指摘されている。細菌の構成成分はToll-like receptor (以下TLR)に対するリガンドとなるが、正常肝ではそのリガンド量も少なく、また免疫寛容状態であるため、それらTLRリガンドへの反応が鈍い。しかしNASHでは、TLRリガンド量増加に加え、免疫寛容状態が破綻し、TLRリガンドへの反応が高まる。我々はTLRシグナルが肝臓での脂肪化、炎症、線維化、そして肝発癌に寄与していると考えているが、今回はその一部研究を紹介したい。

TLRシグナル欠損でNASH改善(コリン欠乏食モデル)

腸内細菌叢はTLRリガンドの主要な供給源であり、肝疾患ではTLRリガンドが増悪因子となることがある1)。TLRは現在13種同定されているが、腸内細菌と密接に関係してくるのはTLR2 (グラム陽性菌の菌成分を認識)、TLR4(グラム陰性桿菌壁成分のLPSを認識)、TLR9 (細菌由来DNAを認識)などである。我々はそれらTLRの遺伝子欠損マウスを用いて、NASH誘導食餌モデルであるコリン欠乏食を投与して、NASH病態を検討している。我々が用いているコリン欠乏食は肥満やインスリン抵抗性を来すように脂質を多く含んだ組成に工夫したものである(投稿中)。それぞれの遺伝子欠損マウスにコリン欠乏食を22週投与すると、脂肪肝の程度は改善しないマウスや改善するマウスと様々であるが、TLR欠損マウスでは炎症や肝線維化が改善する2)-4)(Fig 1)。またそれらTLRに共通するアダプター分子としてMyD88があるが、MyD88 欠損マウスでもNASHが改善する2)。すなわちNASHではTLRシグナルが病態を悪化させていることを示している。

 それらTLR欠損マウスに共通する所見として炎症細胞の浸潤軽減がある。ケモカインはTLRシグナルのターゲット分子であるが、その中で我々はCCL2とその受容体CCR2 (主としてマクロファージに発現)に注目した。マクロファージはTLRを介して様々なサイトカインを産生する能力を有している。TLR欠損マウスでは肝でのCCL2発現が小さく、CCR2陽性細胞数も少ない。NASHにおいてTLRの下流でCCL2が役割を果たしているか検討のため、CCR2 KOマウスにコリン欠乏食を投与したところ、肝での炎症性サイトカイン発現が低下し、NASHは改善した3)。このことから、TLR刺激を受けた肝臓がケモカインを産生し、マクロファージなどの炎症性細胞を肝臓にリクルートし、炎症性サイトカイン産生を介してNASHを悪化させると考えられる。実際、TLR欠損マウスやCCR2欠損マウス肝臓において、骨髄由来炎症性マクロファージとされるLy6C陽性細胞の浸潤が抑制された。また肝臓よりマクロファージを分離し、TLR2,4,9の各種リガンドで刺激すると、炎症性サイトカインやCCL2が産生されることから、マクロファージはTLRを介してNASH病態に寄与している。


図1 TLR mutant マウスにおいてNASH改善 (コリン欠乏食モデル)

各TLR mutantマウスにコリン欠乏食(CDAA diet)を22週投与し、NASHを評価。脂肪肝はマウスにより差があるが(HE)、炎症細胞浸潤(F4/80, Ly6c)や肝線維化(Sirius red)が抑制されている。(Miura K, et al. Gastroenterology. 2010改変, Miura K, et al. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2012改変 Miura K, et al. Hepatology. 2013 改変)

TLR4欠損でNASHおよび肝腫瘍改善 (PTEN KOマウス)

次に我々はNASH発癌におけるTLRの役割を検討した。肝細胞特異的PTEN KOマウス(以下PTEN KO)は肝臓に脂肪性肝炎を来たし、肝癌を誘導するモデルである。このPTEN KOマウスにTLR4 KOまたはTLR2 KOマウスを交配し、PTEN-TLR4 double KO およびPTEN-TLR2 double KOマウスを作製した。この実験系ではTLR4欠損で炎症や腫瘍抑制効果を認めたが、TLR2欠損にはその効果を認めなかった5) (Fig 2)。PTEN KOマウスはコリン欠乏食モデルとは異なり、肥満やインスリン抵抗性を来さないことから、腸内細菌叢を含めた別の要素が異なる結果を誘導した可能性がある。PTEN KOマウスでもLy6C陽性マクロファージの肝臓内への浸潤が目立ち、肝マクロファージを分離すると70%以上はLy6C陽性であった。PTEN KOマウス肝臓から分離したマクロファージは低濃度のTLR4リガンドLPSに反応し、またコントロールマクロファージに比べてもTNFaやIL-6産生能が亢進していた。このことからPTEN KOマウス肝臓でのマクロファージはLPSに対して過敏性であることが判明した。そこで、TLR4KOマウス由来骨髄細胞を移植して、マクロファージを含めた骨髄由来細胞のTLR4を選択的に欠損させたところ、炎症や腫瘍の増大が抑制された。またクロドロネート繰り返し投与でマクロファージを除去するとPTEN KOマウスのNASHや腫瘍が改善した。このことから、マクロファージに発現するTLR4が炎症や肝腫瘍の増大に寄与していることが明らかとなった。

マクロファージから産生される炎症性サイトカインは、インスリン抵抗性誘導による脂肪肝増悪や線維化促進効果など多彩な作用を有するが、我々は肝癌幹細胞に及ぼす影響について検討した。PTEN KOマウスでは肝腫瘍出現前からEpCAM陽性の肝癌幹細胞様細胞が出現する。一方、PTEN-TLR4 double KOマウスではそれら細胞が減少し、癌幹様細胞でのKi67発現が低下し、増殖能が低下していることが示唆された。そこでEpCAM陽性oval細胞(東大、宮島篤教授提供)やヒト肝癌細胞株Huh7細胞からEpCAM陽性細胞を分離してTNFαやIL-6などで刺激してみたところ、細胞増殖能を増加させた。このことから炎症性サイトカインには癌幹様細胞を増殖させる可能性が示唆された。


図2  TLR4欠損でNASHと肝腫瘍が改善 (PTEN KOマウス)

肝細胞特異的PTEN KOマウスとTLR4KOまたはTLR2KOマウスと交配し、PTEN TLR4 double KOマウスおよびPTEN TLR2 double KOマウスを作成。PTEN TLR4 double KOマウスにおいて炎症 (F4/80)、肝線維化(Sirius red)、肝腫瘍が改善した。(Miura K, et al. J Biol Chem. 2016改変)

さいごに

これらのデータからTLRは炎症、線維化、さらには肝発癌に寄与することが明らかになった。よってTLRシグナルはNASHやNASH発癌の新規治療法の開発における注目すべきターゲットである。

参考文献

  1. Miura K, Ohnishi H. Role of gut microbiota and Toll-like receptors in nonalcoholic fatty liver disease. World J Gastroenterol. 2014 Jun 21;20(23):7381-91.
  2. Miura K, Kodama Y, Inokuchi S, Schnabl B, Aoyama T, Ohnishi H, Olefsky JM, Brenner DA, Seki E. Toll-like receptor 9 promotes steatohepatitis by induction of interleukin-1beta in mice. Gastroenterology. 2010;139:323-34.
  3. Miura K, Yang L, van Rooijen N, Ohnishi H, Seki E. Hepatic recruitment of macrophages promotes nonalcoholic steatohepatitis through CCR2. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2012 ;302:G1310-21.
  4. Miura K, Yang L, van Rooijen N, Brenner DA, Ohnishi H, Seki E. Toll-like receptor 2 and palmitic acid cooperatively contribute to the development of nonalcoholic steatohepatitis through inflammasome activation in mice. Hepatology. 2013 ;57:577-89.
  5. Miura K, Ishioka M, Minami S, Horie Y, Ohshima S, Goto T, Ohnishi H. Toll-like Receptor 4 on Macrophage Promotes the Development of Steatohepatitis-related Hepatocellular Carcinoma in Mice. J Biol Chem. 2016;291:11504-17.

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