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研究交流

肝臓星細胞の不思議

目崎喜弘、妹尾春樹
秋田大学大学院医学系研究科細胞生物学講座

1. はじめに


図1 ホッキョクギツネの肝臓星細胞 

ホッキョクギツネの肝臓切片をビタミンAの自家蛍光(左)および塩化金法(右)で観察した。ビタミンAを貯蔵する肝臓星細胞が肝小葉に散在している様子が見える。

 肝臓の類洞周囲腔に存在する肝臓星細胞はビタミンA貯蔵細胞であるが(図1)1)、ウイルス感染やアルコール摂取など様々な刺激に反応して活性化し、コラーゲンを合成・分泌するようになるため、肝線維化の責任細胞としても知られている2)。ビタミンA投与が肝線維化に及ぼす影響については、1987年にビタミンAの活性型代謝産物であるレチノイン酸の受容体(RAR)3)が発見されるより以前から調べられており、線維化を抑制するという報告4)と悪化させるという報告5)が存在する。RARにはRARα、β、γの3つのアイソフォームが存在し、リガンドであるレチノイン酸依存的に標的遺伝子の転写を活性化する核内受容体スーパーファミリーの一員である。以上の背景のもと我々は、肝臓星細胞におけるRARsの働きについて調べている。ビタミンAの貯蔵と肝線維化の関係についていまだ結論は出ていないが、その研究の過程でいくつかの不思議に出合ったので紹介する。

2. 肝臓星細胞におけるRARα遺伝子発現の翻訳レベルでの制御

 これまで、肝臓星細胞の活性化に伴ってRARα、β、γのmRNAが減少することから、肝臓星細胞活性化の過程でレチノイドシグナルは減弱すると考えられてきた6,7)。我々も肝臓星細胞の活性化に伴ってRARα、β、γのmRNAが減少することを確認した。ところが、RARα、βのタンパク質の発現は、肝臓星細胞の活性化に伴って、逆に増加していた8)。実際、レチノイン酸応答配列を用いたレポーターアッセイにより、肝臓星細胞は活性化した後にのみレチノイン酸への応答性を獲得することを確かめた。従ってRARsは肝臓星細胞が活性化した後で何らかの働きを担っていることになる(図2)。


図2 肝臓星細胞におけるレチノイン酸受容体(RAR)遺伝子発現の翻訳レベルでの制御

肝臓星細胞の活性化にともない、レチノイン酸受容体遺伝子発現の翻訳レベルでの制御によりレチノイドシグナルは増強する。詳細なメカニズムと生理的意義に関しては不明である。

 このようなRARα遺伝子発現の翻訳レベルでの制御の詳細なメカニズムは不明である。ラパマイシンは翻訳阻害剤であり、セリン/スレオニン蛋白質キナーゼであるmTORに結合してその効果を発揮するが、活性化肝臓星細胞におけるRARαタンパク質の翻訳は、ラパマイシンによる阻害を免れる8)。また、RARα遺伝子mRNAの5'非翻訳領域には上流オープンリーディングフレーム(uORF)と呼ばれる短いORFが存在し(ヒトで24bp、ラットで21bp)、RARαをコードする本来のORFの翻訳を抑制することが知られている。肝臓星細胞活性化の際のRARα遺伝子発現にも、uORFによる翻訳制御が関与しているかもしれない。

 肝臓星細胞でRARα遺伝子発現が翻訳レベルで制御されていることの意義は何であろうか。ビタミンAは生体に必須の栄養素であるが、過剰になると脳圧亢進、皮膚剥離、催奇形などさまざまな副作用が出てくる。そのため血中ビタミンA濃度は肝臓星細胞の働きにより、おおよそ2μMに保たれている9)。肝臓星細胞は、過剰に存在すると危険なビタミンAをレチニルエステルの形で大量に貯蔵し、必要に応じて直ちにレチノールとして血中に放出しなければならない。静止期の肝臓星細胞はRARαタンパク質でなくmRNAを蓄えることで、自身が大量に蓄えるビタミンAに不応の状態を保ちつつ、必要に応じて直ちにRARαタンパク質を作ることで血中ビタミンAの低下に対処しているのかもしれない。

3.肝臓星細胞におけるRARαタンパク質のドット状の局在

 肝臓星細胞はその名前の由来のとおり星のような形をしているだけでなく、肝小葉内に星のように散在している10)。免疫細胞化学法により内在性RARαタンパク質の局在を調べてみると、活性化肝臓星細胞の中にRARαタンパク質が星のように散在していた(図3)。ところがGFPを融合したRARαタンパク質を活性化しつつある肝臓星細胞に強制発現させると、核が一様に染まる。強制発現ではRARαタンパク質のDNA結合ドメインに存在する核移行シグナル(161から164番目のリジンに富むアミノ酸)が正常に働いて核移行するが、内在性のRARαタンパク質では未知のメカニズムによりRARαタンパク質の核移行が阻害されているようである11)。活性化肝臓星細胞におけるRARαタンパク質のドット状の局在はin vitroで活性化した肝臓星細胞で観察したものであり、 in vivoで活性化した肝臓星細胞で同様の局在を探しているが現在までに見つかっていない。

図3 活性化肝臓星細胞におけるRARαタンパク質の局在
免疫細胞化学法により活性化肝臓星細胞におけるRARαタンパク質の局在を調べたところ、細胞質にドット状に存在した。RARαタンパク質を緑(左上)で、ファロイジンによるFアクチンの染色を赤(左下)で示す。右上に微分干渉像を示し、右下にそれら3枚の像と、さらにTO-PRO-3による核の染色を重ね合わせた像を示す。

3. 結語

 肝臓星細胞は多彩な機能を持つ細胞であり、細胞自体の由来や活性化した後の運命に関しても不明な点が多い12)。肝線維化に関しても活性化肝臓星細胞以外の細胞も関与していることが次第に明らかになりつつある。そのような状況にあって、ビタミンAの貯蔵は唯一星細胞にのみ与えられた役割であり、そのような視点で肝臓星細胞を研究していくことが重要であると考える。

 最後に本稿を書く機会を与えていただきました塩尻信義先生に厚くお礼申しあげます。ここで紹介した我々の研究成果は研究室のメンバーとの共同研究で得られたものです。

引用文献

  1. Higashi N, Senoo H (2003) Distribution of vitamin A-storing lipid droplets in hepatic stellate cells in liver lobules--a comparative study. Anat Rec A Discov Mol Cell Evol Biol 271:240-248
  2. Senoo H, Hata R, Nagai Y et al (1984) Stellate cells (vitamin A-storing cells) are the primary site of collagen synthesis in non-parenchymal cells in the liver. Biomed Res 5:451-458
  3. Petkovich M, Brand NJ, Krust A et al (1987) A human retinoic acid receptor which belongs to the family of nuclear receptors. Nature 330:444-450
  4. Senoo H, Wake K (1985) Suppression of experimental hepatic fibrosis by administration of vitamin A. Lab Invest 52:182-194
  5. Leo MA, Lieber CS (1983) Hepatic fibrosis after long-term administration of ethanol and moderate vitamin A supplementation in the rat. Hepatology 3:1-11
  6. Weiner FR, Blaner WS, Czaja MJ et al (1992) Ito cell expression of a nuclear retinoic acid receptor. Hepatology 15:336-342
  7. Ohata M, Lin M, Satre M et al (1997) Diminished retinoic acid signaling in hepatic stellate cells in cholestatic liver fibrosis. Am J Physiol 272:G589-G596
  8. Mezaki Y, Yoshikawa K, Yamaguchi N et al (2007) Rat hepatic stellate cells acquire retinoid responsiveness after activation in vitro by post-transcriptional regulation of retinoic acid receptor alpha gene expression. Arch Biochem Biophys 465:370-379
  9. Blomhoff R, Blomhoff HK (2006) Overview of retinoid metabolism and function. J Neurobiol 66:606-630
  10. Wake K (1971) "Sternzellen" in the liver: perisinusoidal cells with special reference to storage of vitamin A. Am J Anat 132:429-462
  11. Mezaki Y, Yamaguchi N, Yoshikawa K et al (2009) Insoluble speckled cytosolic distribution of retinoic acid receptor alpha protein as a marker of hepatic stellate cell activation in vitro. J Histochem Cytochem 57:687-699
  12. Friedman SL (2008) Hepatic stellate cells: protean, multifunctional, and enigmatic cells of the liver. Physiol Rev 88:125-172

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