A: タイト結合機能の模式図.
B: タイト結合の構造模式図と凍結割断法によるタイト結合ストランドのレプリカ像.
C: 主なタイト結合関連蛋白の構成図.
図2 claudinの構造,機能,発現分布
A:
claudinの分子構造図.
B: claudinの臓器別発現分布.
C: claudin-1,-2によるポア形成モデル図.
図3 正常ヒト肝組織におけるタイト結合蛋白の発現とclaudin-1,-2の局在
A: ヒト肝組織におけるタイト結合分子のmRNAの発現(RT-PCR),Oc:occludin.
B: ヒト肝小葉内におけるclaudin-1(左),-2(右)の発現分布(免疫染色,C:小葉中心,P:小葉辺縁).
C: ヒト肝細胞のタイト結合ストランドのレプリカ像(凍結割断), BC:bile canaliculi.
肝疾患における重要な症候,黄疸発生におけるclaudinの変化についての詳細な報告は未だない.参考のために図4に,ラットにthioacetamideを投与した時の変化を示した.我々は,初代培養ラット肝細胞を用いて,黄疸発生に関与が考えられるサイトカイン(IL-1beta, TNF-alpha, IL-6)および増殖因子(EGF, HGF, TGF-beta)処置によるclaudin-1,-2の発現変化を検索した.結果,IL-1beta, EGF, HGFおよびTGF-beta処置によりclaudin-2の著しい増加が認められた(図5).そしてそれらの変化は,様々なシグナル伝達経路を介して調節されていることが分かった.しかしより複雑な個体の病態でおこるcytokine stormで,肝細胞のタイト結合機能がどのように変化しているのかについては想像の域を出ない.
図4 claudin-1,-2の肝小葉内局在と壊死後の変化
A: 肝小葉内におけるclaudin-1,-2の発現分布(免疫染色,C:小葉中心,P:小葉辺縁).
B: claudin-1,-2の肝小葉内局在の模式図.
C: 小葉中心性壊死後のclaudin-1,-2の発現変化(H&E), N:necrotic lesion.
図5 初代ラット培養肝細胞を用いたサイトカインおよび増殖因子によるclaudin-1,-2の発現変化
A: サイトカインおよび増殖因子によるclaudin-1,-2蛋白の発現変化.
B: 非実質細胞産生サイトカインおよび増殖因子に対する肝細胞におけるレセプターとシグナル伝達機構.
Apc 遺伝子が肝小葉内のzonation を制御していることが明らかにされていた.中心静脈周囲では,beta-catenin/Wnt signal が活性化されている(3).またAMP-activated protein kinase とLKB1 が毛細胆管網の形成を促すことが明らかにされた(4).LKB1 は,PAR-1 を介してタイト結合形成に関与していると考えられている.つい最近の報告では,肝特異的beta-catenin ノックアウトマウスで,毛細胆管に異常が起こり肝内胆汁鬱滞が起こることが示された.このマウスでは,claudin-2の発現がほとんどなかったが,タイト結合は形成されていたと報告されている(4).つまりclaudin-2 はWntシグナルにも強く制御を受けていることが示唆される.一方,我々も,肝細胞極性を良く保持しているWIF-B1 細胞にclaudin-2のsiRNA を導入すると,毛細胆管様のcyst 形成が抑制されることを報告している(5).さらに我々は,ヒト閉塞性黄疸でclaudin-1とともにclaudin-2 も発現が上昇していること(6)を観察している(図6).先にも述べたが, Claudin-2 は,正常の肝小葉中心静脈周囲に高発現していること,肝細胞のclaudin-2が選択的にイオン,具体的にはNaイオン,を通過させる機能をもち,最近water-channel として考えられるようになったこと(7)を考えると,claudin-2 は,タイト結合の一部に組み込まれて存在し,その浸透圧調節により毛細胆管内の胆汁量の調節をし,胆汁を速やかに小葉中心から辺縁に流すのに積極的に働いているのではないかと考えられる.
図6 ヒト閉塞性黄疸肝におけるclaudin-1,-2の発現と局在変化
A: ヒト閉塞性黄疸肝におけるclaudin-1,-2蛋白の発現変化(Western blot).
B: ヒト閉塞性黄疸肝におけるclaudin-1,-2の局在の変化(免疫染色,C:小葉中心,P:小葉辺縁).
肝疾患とタイト結合蛋白claudinとの関係の研究は始まったばかりであり,羅列的な文章になったことをお許し願いたい.ギャップ結合やマイクロフィラメントによるタイト結合の機能調節もあり,また,肝細胞の極性が極めて特殊であるため,培養系での肝細胞タイト結合の解析も難しいが,より多くの方に,肝細胞のタイト結合の研究に参加していただきたいと願っている.