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研究交流

骨髄細胞の臨床応用

坂井田 功
山口大学大学院医学系研究科消化器病態内科学

骨髄細胞と肝臓

肝臓疾患における骨髄細胞の役割については、相反する報告が見られる。すなわち、肝線維化を抑制(改善)するという我々(1)や稲垣先生らの報告と(2)、線維化を促進するとした報告(3)である。実験系などで骨髄細胞の役割は変わるが、少なくとも我々の行っていることは、どんな状態(正常時・病的時)でも決して流血中には出てこない骨髄細胞を強制的に体外に一度取り出して、再度体内(流血中)に戻すことで生じている現象を見ているのであって、病的状態(肝硬変)での骨髄(細胞)と肝臓の関連を見ているのではないことを十分承知してほしい(このため骨髄移植ではなく、骨髄細胞投与療法と呼んでいる。)この点は、Forbes SJ博士も認識している(Personal Communication)が、彼や稲垣先生が行っているように、線維化に関しては伊東細胞(星細胞)が主役であるが、Kupffer細胞の役割を見直す時期にあると考える。骨髄細胞の中に究極的な多分化能を有する幹細胞があるのかは、今後のさらなる検討が待たれるが、少なくとも、骨髄間葉系細胞が数々の細胞に分化することは知られているし(図1)、我々の基礎研究でも骨髄間葉系細胞が肝硬変に対して肝機能回復効果や抗線維化作用も強いが、全分画の骨髄細胞投与が一番効果的である。このため、以下の臨床では肝硬変患者自身から取り出した骨髄細胞群を末梢血管から投与した結果を示す。

臨床研究「肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法(Autologous Bone Marrow Cell Infusion(ABMI)」

これら基礎研究を基盤として、平成15年11月より国内初の臨床研究「肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法」を開始した。この臨床研究の適応条件は以下に示す(保険適用なし)。

【対象
進行した肝硬変症(非代償性肝硬変症)

【プロトコール
実際のプロトコールは,全身麻酔下にて、自己骨髄細胞を400ml採取する(図2)。採取した骨髄液を濃縮洗浄し、その骨髄液をGMPグレード設備が完備された再生・細胞療法センターでSOPに順次洗浄し、単核球細胞を精製し患者本人の末梢静脈より投与する(図3)。細胞投与後は6ヶ月まで経過観察を続け、血液生化学検査・肝生検組織検査・腹部超音波検査、腹部CT検査を行い、安全性および有効性の評価を行った。現在までに我々が実施した23症例では、合併症や重篤な副作用を認めず安全に治療が行われてきた。経過観察中において、加療法については変化させない状態で行った。


【結果:6ヶ月以上長期観察可能であった症例経過】
施行症例のうち長期に経過観察可能であった症例については、骨髄細胞投与後、血清アルブミン値、総蛋白値、Child-Pugh Scoreの改善効果や腹水の消失(図4)が明らかになってきており(4)、治療後には再生のマーカーも人の肝臓組織で有意に上昇していた(図5)。平成20年8月現在までに23症例を経験し、また我々が開発したこのABMI療法は、山形大学で3例(山口大学チームと共同実施)、韓国の延世大学で8例(論文投稿中)、ブラジルで10例の追試が行われた(5)(ただしブラジルのグループの場合は肝動脈からの投与)。このように多施設臨床研究の結果、徐々にそのABMI療法および自己骨髄細胞を用いた治療の安全性、また効果が明らかになってきた。
ABMI療法の開発のきっかけは骨髄中の肝細胞に分化する細胞の発見であった(6)。この結果は、肝臓自体が再生不全状態になっている肝硬変症患者の治療の新たな細胞源として骨髄細胞を使える可能性を示唆するものであった。そこで、我々はABMI療法の開発にあたり、骨髄細胞の肝細胞への分化増殖評価モデルとして、GFP/CCl4モデルを開発した(7)。骨髄細胞の投与により、肝硬変症状態にしたレシピエントマウスには血清アルブミン値の改善や生存率の上昇が認められた。また投与した骨髄細胞からはMatrix metalloproteinase(MMP) - 9等のコラゲナーゼ産生も確認され、組織学的検討でも肝線維化の改善が認められた。これらの結果から、骨髄細胞投与により肝合成能・肝線維化・生命予後の改善をもたらすことが明らかになった(1)。一方で骨髄幹細胞の肝細胞へ分化については細胞融合がより重要であるという報告もあり、骨髄細胞が肝細胞になるのは細胞融合の関与も忘れてはならない問題である。肝臓自体マウスにおいて核型は2N,4N,8N, 16Nの核型の細胞が混在していることがわかっており、その生物学意味は結論がでていない状況である。肝臓に存在する肝幹細胞についても依然として明確な抗原はなく、最近になりEPCAMなどのマーカーがようやく分子としてわかってきており、細胞の分化については非常に注意し、検討していく必要がある。一方で、我々の最初の報告と同様に骨髄細胞投与が肝線維化に有用であるとの報告があり(8)、少なくも現状の理解では、投与した骨髄細胞は肝硬変症の肝臓の肝線維化などを改善しその結果、肝硬変状態の肝臓の微小環境を改善すると考えられている。これらの結果をまとめると、骨髄細胞投与により肝硬変症の“修復機構”の誘導が起こりその結果肝機能が改善したと考える(図6)。今後は、さらに基礎研究においては、このメカニズムの解明が重要と考えている。

今後の課題

全く新しい治療法については、最初の段階は、ランダム化したコントロールスタデイができない状況である。ABMI療法についてもその開発においては、安全性およびフィージビリテイそして効果について検討がなされ、まず我々の施設で安全性、有効性が明らかになった。また、ドイツ、イギリスでは、類似しているがある分画の骨髄細胞(CD133、CD34陽性)を投与して、肝硬変や肝癌切除後の肝再生に有効と報告している(9, 10)。
基礎研究成果より予測された結果が、臨床現場において証明されたことは非常に重要なことであると考える。今後の検討すべき課題として我々は過去の解析より、間葉系幹細胞が肝硬変症治療に有効と考えているが、人については依然としてどの細胞が有用か明らかになっていない。血管内皮前駆細胞が有効とする報告もある。今後はさらに患者の侵襲を少なくするため、培養した脂肪由来幹細胞、間葉系幹細胞を用いた治療の基礎研究成果の臨床研究への展開が進むと考える。しかしながら、実際にそれら培養した細胞を使う場合は、厚生労働省の定めた(幹細胞を用いた臨床研究の指針)を遵守しながら、慎重に治療開発のための臨床研究を進めていくことが重要になる。またその施行においては、GMP基準Cell processing centerでSOP準拠し細胞の加工、医薬品を使うことが必要になる。慢性肝疾患に対する細胞を用いた治療は、我々の臨床研究を契機に世界的に広がってきており、生体肝移植までのブリッジの治療や副作用の強いインターフェロン治療に耐えれない進行した肝硬変状態を改善し、慢性肝炎状態に近づけてインターフェロン治療の対象になる状態にできれば、患者への福音になると考えている。このためにはさらなる、基礎、臨床をつなぐ橋渡しとなる研究を精力的に行っていく必要がある。

文献

  1. Sakaida I, et al. Hepatology. 2004; 40: 1304-1311.
  2. Higashiyama R, et al. Hepatology. 2007; 45: 213-222.
  3. Russo FP, et al. Gastroenterology. 2006; 130: 1807-1821.
  4. Terai S, et al. Stem Cells. 2006; 24: 2292-2298.
  5. Lyra AC, et al. World J Gastroenterol. 2007; 13: 1067-1073.
  6. Theise ND, et al. Hepatology. 2000; 32: 11-16.
  7. Terai S, et al. J Biochem. 2003; 134: 551-558.
  8. Oyagi S, et al. J Hepatol. 2006; 44: 742-748.
  9. Gordon MY, et al. Stem Cells. 2006; 24:1822-1830.
  10. am Esch JS 2nd, et al. Stem Cells. 2005; 23: 463-470.

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