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研究交流

星細胞と肝線維化研究の動向

河田 則文
大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学

肝臓の線維化に関する研究は1985年前後に星細胞(hepatic stellate cell, HSC)が細胞外マトリックス物質を産生することが報告されてから急速に展開し、今日では基礎研究で得られた情報が臨床現場で応用され、日常診療に貢献するまでに至っています。いわば成功例の研究領域です。本稿では、星細胞と肝臓の線維化に関する研究を簡単に振り返ってみます。

日本では星細胞という名前よりも伊東細胞の方がまだ馴染みがあるのかもしれません。この細胞には、他にもfat-storing cell, lipocyte, interstitial cell, vitamin A-storing cellなど実に様々な名称で呼ばれてきた歴史があります(1)。伊東俊夫先生、和氣健二郎先生という日本の二先生が星細胞研究に及ぼした貢献は計り知れません。世界で星細胞の存在すら認知されていなかった時代に見事に肝臓を構成する一細胞であることを見いだされた観察力には敬服いたします。星細胞研究は1980年代になると形態学から培養細胞による研究へと推移しましたが、ここにはコラーゲナーゼやプロナーゼを用いて肝臓を灌流消化する方法の開発、さらには密度勾配遠心法やエルートリエーションローターで細胞を精製する技術の開発が大きく貢献したと考えられます。この結果として、高純度の星細胞こそが肝臓内のコラーゲン産生細胞であることを示したFriedman SL先生らの報告が肝線維化の分子論的理解の幕開けとなりました。折しも1989年にC型肝炎ウイルスが報告されたことと重なり、雑誌Hepatologyのインパクトファクターが1997年の5.85から2006年の10.4まで10年間でほぼ倍増したことに星細胞/線維化関連の論文が寄与したことは間違いないと思われます。

実に多くの論文が星細胞関連で生まれ、まだまだ減少傾向ではない勢いを保っていますが、星細胞の起源は何か?、星細胞にstem cellはあるのか?、星細胞活性化の最も大切なイニシエーターは何か?、一旦活性化して筋線維芽様細胞(Myofibroblast)化した星細胞の運命は?、肝線維化に寄与するコラーゲン産生細胞は星細胞だけか?、そもそも星細胞に貯蔵されているビタミンAの星細胞機能への関与は?、などなど実はまだまだ解らないことだらけです。

最近では、基礎的研究の隆盛と歩調を伴にして、臨床現場では非侵襲的な肝線維化評価法が話題を集めています。患者さんへの負担を少なくすることと同時に、肝生検以外で線維化レベルを定量できないか、できれば薬効の評価がより客観的になる、との目的で開発が進められています。血清を用いたFibrotestが一つ、もう一つがFibroScanという組織の硬度を測定する装置(2)で、この二つはある意味バトルを繰り広げています(両者ともフランスで開発されたのが興味深い点です)。それ以外にも、腹部超音波検査をする際に同時にエラストグラフィーで肝臓の硬さを測定することも始まっています(これは日本で開発されています。エラストグラフィーは乳がんの発見に利用されています)。

肝線維化研究で残念な点は、研究を活かした薬剤が開発されていないところです。日本ではB、C型ウイルス性肝炎が主要な肝臓病なので、ウイルスを排除すれば線維化も良くなるとの認識で抗ウイルス療法に主眼が置かれています。しかし、海外ではアルコール性肝障害による線維化、さらには、肥満や糖尿病による肝硬変(脂肪性肝炎、NASH。写真はヒトNASHからの肝硬変)の方が喫緊の健康問題です(3)。となると、肝細胞―星細胞の相互作用を主眼とした研究がさらに進められるべきではないでしょうか?肝細胞も星細胞も培養というアーティファクトを加えるだけで大きな機能変化をしてしまいます。従って、アルコールや肥満による肝線維化研究には至適な動物モデルの構築が重要です。

肝組織の中から日本人により発見された星細胞は、培養系を用いて飛躍的にその細胞の性質を解析され、再び肝臓の組織局所でのin vivo機能評価を受ける時が来たように思われます。

  1. Wake K. Perisinusoidal stellate cells (fat-storing cells, interstitial cells, lipocytes), their related structure in and around the liver sinusoids, and vitamin A-storing cells in extrahepatic organs. Int Rev Cytol. 1980;66:303-53.
  2. Castéra L, Vergniol J, Foucher J, Le Bail B, Chanteloup E, Haaser M, Darriet M, Couzigou P, De Lédinghen V. Prospective comparison of transient elastography, Fibrotest, APRI, and liver biopsy for the assessment of fibrosis in chronic hepatitis C.
    Gastroenterology. 2005;128:343-50.
  3. Ratziu V, Giral P, Charlotte F, Bruckert E, Thibault V, Theodorou I, Khalil L, Turpin G, Opolon P, Poynard T. Liver fibrosis in overweight patients. Gastroenterology. 2000;118:1117-23.

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