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研究会概要

第23回肝細胞研究会を終えて

熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学
佐々木裕

2016年7月7日、8日の2日間、大阪大学中之島センターにて第23回肝細胞研究会を開催させていただきました。
まずは同年4月に発生しました熊本地震に際し、多くの会員の先生方よりお見舞いや励ましのメイル、お電話を頂戴しましたこと、改めまして厚く御礼申し上げます。また宮島篤先生をはじめ世話人の先生方には、研究会の開催の延期や中止までも ご検討いただき重ねて御礼申し上げます。当初より大阪での開催を予定しておりましたうえに、研究会を開催することで教室員の士気も上がるものと考え、予定通り開催させていただきました。多くの演題のご応募とたくさんの先生方のご参加に、我々は大変励まされ勇気づけられました。先生方のご厚情に心より感謝申し上げます。震災後1年を迎え熊本は落ち着きを取り戻してきております。しかしながら復興は未だ途中であり、阿蘇方面を中心に交通事情も回復しておりません。また県民の心の支えでもある熊本城の修復にも、まだまだ時間がかかりそうです。一方、熊本大学の研究体制は元の状態に復帰しつつありますが、会員の先生方には引き続きご支援・ご協力賜りますようお願い申し上げます。

さて第23回肝細胞研究会ではメインテーマを「肝臓の細胞社会学」とし、肝細胞、非実質細胞ならびに免疫担当細胞のクロストークが、どのように肝臓の機能発現・維持に関与するか、さらにクロストークの破たんが炎症、線維化、脂肪化、癌化などの病態形成に結び付くかをご発表・ご議論いただきました。肝臓は様々な種類の細胞で構成されており、それらのクロストークにフォーカスを当てることで、肝臓の機能とその維持、ならびに病態形成を時空間的に理解できるのではないかと考え、このようなテーマを設定しました。また今回は「肝病態の解析」と「臨床への展開」を、”より意識した”プログラム構成とさせていただきました。
鳥取大学 汐田剛史先生と札幌医科大学 谷水直樹先生にご担当いただいたシンポジウム1「細胞間相互作用から見た肝再生機序の現状」では、肝幹/前駆細胞の実態解明と肝再生への関与についての基調講演的な演題を皮切りに、慢性肝障害時の成熟肝細胞の脱分化や分化転換、Notchシグナルの活性化による肝前駆細胞の発生・再生への関与が報告され、また肝硬変患者に対する自己骨髄細胞を用いた再生療法における肝臓の構成細胞の役割が明らかにされました。さらに類洞内皮細胞と肝細胞の相互作用による肝再生の制御、維持的なDNAメチル化の肝発生や肝再生に果たす役割についても発表されました。このように肝臓の構成細胞の相互作用が、肝再生という劇的な生体現象を厳密に制御し、肝組織・機能を再構築することを改めて理解しえたシンポジウムでした。
三重大学 竹井謙之先生と大阪市立大学 河田則文先生にご司会いただいたシンポジウムII「肝の恒常性維持と病態形成における細胞間クロストーク」では、肝実質細胞との接着破綻が肝星細胞の活性化の引き金であること、肝実質細胞由来のextracellular vesiclesはマクロファージを介してアルコール性肝炎に結びつくことが報告されました。また、糖蛋白質WFA(+)-M2BPが肝星細胞とクッパー細胞との連関で肝線維化を促進する結果や、虚血性再還流等で障害を受ける類洞内皮細胞の細胞保護を目指した成果が発表されました。さらに肝線維化やNASH肝癌における自然免疫系と病態との関連が論じられ、結合組織増殖因子を介した腫瘍間質反応も発表されました。一方、遺伝子改変による胆管癌モデルマウスを用いた胆管障害からの発癌機構の解明が期待されます。またマウスモデルからFibrolamellar hepatocelula carcinomaが胆管系癌幹細胞に由来する可能性が示されました。このように肝臓の構成細胞の機能分担、類洞やデイッセ腔などの機能発現の「場」としての意義を明らかにしていただき、メディエータの生理学的意義や変調による病態発生までご議論いただきました。
国立国際医療センター肝炎免疫センター 考藤達哉先生と神戸大学 全 陽先生にはシンポジウムIII「肝細胞微小免疫環境の解明に基づく疾患研究-動的平衡の維持と破綻のメカニズム」をご担当いただきました。その中で、血小板とクッパー細胞との相互作用による類洞内微小循環障害、オンコスタチンMの線維化における役割、肝細胞障害や肝線維化に対するCytoglobinの抑制効果が発表されました。また転写抑制因子であるId2がTh1を介して肝炎発症に関与することも報告されました。さらにパルミチン酸がLPSと協調してNASH病理像を呈することや、ヒト非ウイルス性肝障害における肝内微小免疫環境の多様性も明らかになりました。加えてanion exchanger 2のPBC病態形成への関与が示され、線維芽細胞であるLCFとCAFが癌細胞の悪性形質や腫瘍関連マクロファージの誘導に関与するという発表もなされました。このように主として免疫系細胞の機能解析を通して、肝細胞の恒常性の維持や破綻のメカニズムを明らかにする演題をご発表いただき、肝胆道疾患病態の理解に新たな視点を与えていただきました。
一方、特別講演Iとして、熊本大学中尾光善教授には「エピジェネティクス機構による細胞制御と病態」というタイトルでご講演をいただきました。肝臓の構成細胞の機能発現にエピジェネティクスな制御がどのように関与し、その破たんが病態形成にも結び付くかをご解説いただき、肝臓の細胞社会学を考える上で極めて有用な内容でした。
また広島大学田原栄俊教授には特別講演II「老化、がんにおけるエクソソーム新展開」でご講演をいただきました。マイクロRNAやエクソソームについて、その生理的意義や病態への関与についてご解説賜り、有用な情報をご教示いただきました。

一般口演、ポスター討論では、肝細胞障害・細胞死、肝幹/前駆細胞、細胞培養、発生・組織構築、細胞機能、代謝などの基礎的な演題に加え、線維化、ウイルス感染、発癌など肝疾患の病態解析にもつながる演題を多数ご発表いただき、また実りのある討論もなされました。ポスター討論では会場が多くの参加者で溢れ、活気のある質疑応答が行われたことが極めて印象的でした。その中から優秀演題が選ばれ、閉会式で表彰されました。受賞された4名の皆さんの今後の研究のご発展を期待します。

また協賛セミナーでは、大阪大学 竹原徹郎先生には肝線維化と肝発癌について、ロンドン大学 Massimo Pinzani 先生にはドナー肝臓を用いた3次元立体培養、京都大学 丸澤宏之先生には肝硬変に潜むゲノム異常についてご講演いただき、会員に研究成果と最新の情報をご紹介いただき、大変参考になりました。

近年の治療法の進歩に伴い、ウイルス性肝疾患、とりわけC型肝炎ウイルス関連肝疾患がこれから減少していくことが考えられます。その一方では、アルコール、肥満、糖尿病などを基盤とした生活習慣関連肝疾患の増加が予想されます。このような肝臓病のパラダイムシフトを迎え、これからの肝臓学、肝臓病学の方向性を、基礎系研究者と臨床系研究者が一同に会し議論できた、そのような実りのある肝細胞研究会であったと思います。これもひとえに、素晴らしい研究内容をご発表いただいた演者の先生方や、また司会や座長の労をお取りいただいた先生方のご支援、ご協力の賜物と感謝しております。
本研究会でのご発表や討論が、将来の肝臓学の進歩や肝疾患の新たな診断法、治療法へと結びつくことを祈念し、会長からの御礼とさせていただきます。

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