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研究会活動紹介

肝細胞研究に参加して

順天堂大学大学院医学研究科 免疫学
中野 裕康

この度は歴史ある肝細胞研究会のシンポジウムで発表の機会を与えていただき、また研究室の仁科君が優秀ポスター賞をいただき、大会長の三高先生を初めとして、世話人の方々に深く感謝致します。私は最終日だけの参加でしたが、質疑応答が非常に活発で、活気のある研究会だと感心して演題発表や質疑応答を聞いておりました。

せっかくの機会ですので、この場をお借りまして、今回の私たちの発表内容について、ご紹介させていただきます。私達の研究室は、転写因子NF-κBの活性化のメカニズムや、NF-κBによる細胞死抑制のメカニズムの研究に従事しており、ここ数年は酸化ストレスと細胞死を研究の中心に据えて実験を行っております。今回シンポジウムで発表させていただいた「酸化ストレスと代償性増殖を連結する因子の同定」の仕事は、実はまったくの偶然から生まれた産物です。話は2008年にまでさかのぼりますが、その当時の一つのプロジェクトは、酸化ストレス依存性に誘導される遺伝子の網羅的なスクリーニングを行い、その遺伝子のプロモーターの下流にGFP遺伝子を連結した発現ベクターを用いて、トランスジェニックマウスを作製し、酸化ストレスをin vivoで可視化するというものでした。マイクロアレイ解析で多くの候補遺伝子が見つかったものの、in vitroで顕著に上昇する遺伝子がin vivoではあまり上昇が見られず、プロジェクトが一時頓挫しかかっていました。それとは別のプロジェクトとして、c-FLIPと呼ばれる細胞死抑制因子の肝臓特異的なノックアウトマウスを作製し、肝炎を誘導した時に発現の上昇してくる遺伝子を同定し、その中から死細胞から放出され、炎症に関与する新たなDamage-Associated Molecular Pattern Molecules (DAMPs) を同定するという研究を行っていました。当然IL-6やケモカインなどの遺伝子が上昇していたのですが、最も発現の高かった遺伝子が今回発表させていただいたIL-11というサイトカインの遺伝子でした。結果を見た当初は、IL-11の発現が上昇していることの意義については、まったく不明でしたが、ある夜にin vitroでの酸化ストレス刺激により発現の誘導される遺伝子のリストを再度チェックしていたところ、その中にIL-11があったのを見て驚きました。その後qPCRでもIL-11のmRNAが酸化ストレス刺激により上昇していることを確認し、その後2年以上の紆余曲折はあったものの、何とか論文にすることが出来ました(Nishina et al, Science Signaling 2012)。当初の我々の目的は死細胞から放出され炎症を誘導する因子の同定でしたが、結果的には酸化ストレス依存性に死細胞から放出され、周囲の細胞に増殖を誘導する因子(代償性増殖)を同定することができました。この仕事は、著明な研究者の方々が言われるserendipityと言うにはおこがましいほどの小さな発見でしたが、今後も小さなserendipityを見落とさないように、大学院生やポスドクに指導していきたいと思っております。最後になりますが、このような自己紹介の文章を書く機会を与えていただきました、三高先生および塩尻先生に深謝致します。

HP 第19回肝細胞研究会サイト

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