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研究会概要

第19回肝細胞研究会 シンポジウムII 「肝細胞の機能発現を制御する環境因子」まとめ

東京女子医科大学 大橋一夫
名古屋大学 小田裕昭

 肝細胞が発揮する極めて多彩な機能は、生体の恒常性に中心的な役割を果す。そのため、肝細胞が生体内および培養下環境において機能発現を維持・調節する機構を明らかとすることは、肝病態の解明と治療開発において重要である。本シンポジウムでは、生体内での肝細胞のゾーン特性と細胞死/増殖の新たなメカニズム、および3次元特性を付与する新しい培養環境における肝細胞機能について、6演題の発表と活発な討論がなされたので振り返りたい。

 合田亘人先生(早稲田大学)は、転写調節因子であるhypoxia inducible factor (HIF)発現の観点から肝臓のzone特異的機能を明らかとし、HIF-1αと-1βが協調的にアルコール性肝障害病態の進展を防止していることをマウスの実験系で明らかとした。HIFはゾーン特異的な低酸素応答のみならず、細胞内代謝の亢進や炎症反応の蓄積など様々な病態と連携する分子であることから、肝病態の新機軸としての解明が期待される。

 大橋(東京女子医科大学)は、hepatic cordを模倣する培養系開発の意義について述べた。肝細胞と内皮細胞から成る細胞シート積層培養系では長期間の機能維持が可能となった。ヒト初代培養肝細胞と線維芽細胞との積層系は生体内での高機能化を実現し、またES細胞由来肝細胞とSwiss3T3細胞との積層系では肝細胞への成熟化促進に成功した。さらに、3T3細胞との分離肝細胞をゲルファイバー内に高速線状配列させる新たな培養系も紹介した。

 須藤亮先生(慶應義塾大学)は、乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)による多孔性薄膜を挟んだ肝細胞と星細胞、類洞内皮細胞の類洞構造の再構成を試みた。多孔性薄膜はディッセ腔に近づける試みである。多孔性薄膜の上にはマトリゲル上に内皮細胞を培養することにより毛細血管ネットワークを構築し、多孔性薄膜の下には星細胞と小型肝細胞を共培養させた。3種の細胞の共培養による類洞類似の構造体は、肝細胞分化マーカーの長期にわたる維持を可能にした。

 山添太士先生(熊本大学)は、ES細胞やiPS細胞から肝細胞分化誘導を可能とする新しい培養表面の開発に成功した。完全合成基材であるナノファイバーを培養皿表面に固定化したものであるが、M15支持細胞やウシ血清成分を用いることなく分化誘導が可能となっている。ナノファイバーと培養皿表面の接着性などが至適化されていくことにより、臨床応用に結びつく技術として注目される。

 小島伸彦先生(東京大学)は、アルギン酸ゲルからなる細胞疑似マイクロ球体の作製法を開発し、本球体を非実質細胞にみたて肝細胞との混合スフェロイドを作製することにより、スフェロイド内でHepG2細胞をhepatic cord様に配列させることに成功した。細胞疑似球体とHepG2細胞列間に微細な間隙が造り出されることで、スフェロイド内部まで酸素供給を可能とすることから、中心性壊死の発生しない新しい培養系として期待できる。

 中野裕康先生(順天堂大学)は、肝細胞がアポトーシスを起こしたとき、その細胞が様々な因子を放出することにより周りの細胞増殖を刺激する代償性増殖が起きるメカニズムを検討した。アポトーシスを起こした肝細胞は、IL-11を放出しパラクリンによって近傍の細胞増殖を刺激して代償性増殖を起こすことを示した。つまり、肝実質細胞間のコミュニケーションである。そして、このIL-11の誘導は酸化ストレスに対する応答として放出されることを示した。

 今回のシンポジウムでは、独自の工夫を凝らした独創的なアプローチによって肝細胞機能の制御法ならびに制御機構を紹介するものであった。異なったアプローチであったが、論点はいくつかにまとめることができる。1)細胞を保持する担体であるマトリクス、2)酸素の供給の不足と酸化的ストレス、3)共培養する細胞種(コミュニケーションをする細胞種)、4)細胞形態、5)大きさ(細胞、細胞塊、細胞間の薄膜)、6)設計か自己組織化か。これら論点は、相互に関係しており、酸素の供給を適切にするのには、細胞塊は一定以上大きくすることはできず(径の3乗)、そのため表面積を上げる必要があるが、そのためには平面もしくは管状構造をとる必要があり(径の2乗)、肝細胞を詰め込もうとすると多面体の立体形態を必要とし、内皮、星細胞は表面積を保つため管状構造を必要とする。大きさについてはそれぞれの演者が具体的な数値が提示していたので、この数値のアロメトリーを基に定量的な総合討論があったらさらに面白いかもしれない。

HP 第19回肝細胞研究会サイト

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