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研究会活動紹介

シンポジウム2「肝再生の制御機構」

山口大学大学院医学研究科 消化器病態内科学 坂井田功
札幌医科大学フロンティア医学研究所組織再生学部門 三高俊広

第18回肝細胞研究会 2日目シンポジウム2 「肝再生の制御機構」を 山口大学消化器病態内科学 坂井田功教授と札幌医科大学フロンティア医学研究所組織再生学部門の三高が座長をいたしました。以下にシンポジウムの内容を簡単にまとめさせていただきました。

第一席の宮岡佑一郎先生(東京大学分子細胞生物学研究所)は,成体マウス肝細胞を標識し部分肝切除を行ったモデルを用いて肝細胞の細胞周期を解析し、これまで3H-thymidine、BrdU標識研究などにより肝細胞の多くは分裂し、1.7回分裂すれば元の大きさに戻るとの通説に対して疑義を提示しました。実際に分裂する細胞数は多くはなく、二核肝細胞が高頻度に分裂し単核肝細胞を生み出すことと個々の細胞が肥大することにより容積が元に戻ることを示しました。この結果は、肝再生について根本的に考え直すことに繋がるかもしれない重要な報告でした。

第二席の飯室勇二先生(兵庫医科大学肝胆膵外科)は、肝癌の部分肝切除を行った患者において,術前後の門脈血流と肝再生率をMD-CTで評価し,術後2週の門脈血流と術後3ヶ月の肝再生率が相関することから,血流動態変化が肝再生の制御因子であることを実際のヒト肝切除例で示しました。

第三席の細谷聡子先生(順天堂大学消化器内科)は,NKT細胞が枯渇しているCD1d KOマウスとNK細胞、NKT細胞に対する抗体を用いて、肝再生時にNK細胞とNKT細胞が協調的に働くことを示しました。

第四席の高橋一広先生(筑波大学消化器外科)は、Kupffer細胞を除去したマウスに部分肝切除を行い、ヒト血小板を輸血すると、血小板の肝集積と活性化は正常マウスに比較して有意に低下し,肝細胞増殖が低下することから,Kupffer細胞と血小板との協調作用が肝再生を促進することを示しました。

第五席の傅玲先生(順天堂大学環境医学研究所)は、部分肝切除後4日目の肝臓から分離した類洞内皮細胞の培養系に、sphingosine 1-phosphate(S1P)を添加することによって遊走・増殖能が亢進し、それらがSphk1抑制により阻害されたことから、肝類洞再構築にはS1Pを介したシグナルが重要であることを報告しました。

第六席の尾崎倫孝先生(北海道大学分子制御外科)は,STAT-3 KOマウスおよびPDK-1 KOマウスを用いたこれまでの研究から,正常肝切除後の肝再生には細胞成長と増殖が共に重要であり、PDK-1/Akt経路が必須の因子であることを報告し、また脂肪肝や加齢などによる病態肝臓の再生は、それぞれ異なる機序で抑制されていることを報告しました。

第七席の市戸義久先生(札幌医科大学フロンティア医学研究所)は、分化度の異なる肝幹・前駆細胞としてThy1陽性細胞(オーバル細胞)とCD44陽性細胞(小型肝細胞)、そして成熟肝細胞をRetrorsine/部分肝切除ラットに移植したところ、Thy1陽性細胞はほとんど生着せずにレシピエント由来肝前駆細胞の増殖を促進させる一方、成熟肝細胞にその作用は無いことを示しました。また、肝幹・前駆細胞の多くは早期に細胞老化に陥るが成熟肝細胞由来の細胞は長期生存することを示しました。

第八席の谷本治子先生(山口大学消化器病態内科学)は、ヒト骨髄間葉系細胞を培養し、95%以上間葉系細胞になった2継代目の細胞を免疫不全肝硬変モデルマウスに移植したところ、肝線維化改善効果が認められたことから、培養細胞による細胞療法の可能性を示しました。

古くて新しい問題である部分肝切除後の肝再生を新たな切り口で解析しようという意欲的な試みや、肝細胞と非実質細胞・移植細胞との相互作用、小葉改築など、従来行われてきた個々の細胞を中心とした肝再生の分子機序の解析から、肝組織の再生を時空間的に総合して把握しようという研究に移りつつあることを印象づけるシンポジウムであったと思います。

HP 第18回肝細胞研究会サイト

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