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研究会活動紹介

シンポジウム2「肝幹細胞と肝再生」

紙谷聡英
東京大学医科学研究所・幹細胞治療分野

 本シンポジウム2「肝幹細胞と肝再生」では、成体における肝幹細胞の動態や肝再生過程での役割に焦点を絞りました。東京女子医科大学の大橋一夫先生とともに企画させていただくにあたり、テーマとして①成体の肝臓における幹細胞の性状、②肝障害によって誘導される肝再生と幹細胞の関連を、基礎から臨床研究まで議論できるようなプログラムを目指しました。肝幹細胞は、胎生期の肝臓由来細胞の分離・培養系の確立などで詳細な性状解析が可能となった一方で、成体の肝臓における幹細胞システムやその肝障害・肝再生における寄与は未だ不明な点が多く、本シンポジウムでその理解が進むことを期待いたしました。

 発表は、1.東京大学分子細胞生物学研究所・伊藤暢先生より、成体肝幹・前駆細胞を制御するシグナル分子としてFGF7の重要性を、in vivoでの遺伝子導入系を用いて証明した研究発表がなされました。2.久留米大学医学部・桑原礼一朗先生からは、アセトアミノフェン急性肝障害時におけるOval細胞の動態を、Brd-Uを用いたLabel-retaining cellの解析から報告されました。一般講演でも活発な議論があったように、肝障害時におけるOval細胞については、どの細胞がオリジンで本当に肝再生に寄与するのかという重要な問題があり、成体の肝幹細胞を制御するシグナル経路を含めた分子メカニズムの同定が今後進むと考えています。3.東京女子医科大学・大橋一夫先生からは、肝細胞を用いた細胞移植療法を目指した基盤的な研究発表がなされました。移殖等に利用できる機能的な肝細胞を大量に得る手段として、uPA-Scidマウスを用いたin vivoでの細胞増幅システムや、腎皮膜下を利用した肝組織様構造の形成誘導について報告されました。4.東海大学医学部・稲垣豊先生からは、肝障害によって誘導された肝硬変(肝線維化)と、骨髄細胞との関連について発表がなされました。流入する骨髄由来細胞がマトリクスメタロプロテアーゼ13および9を介して肝線維化の改善に寄与する。また、肝線維化状態における骨髄由来細胞からの細胞外マトリクス産生の危険性が低いことがマウスモデルを用いて示され、骨髄由来細胞を用いた肝線維化の治療に向けた研究成果が報告されました。5.山口大学・寺井祟二先生からは、実際の臨床の現場での自家骨髄細胞投与による肝硬変の修復療法の可能性について報告をいただきました。骨髄幹細胞や成体肝細胞・肝幹細胞等を肝硬変や劇症肝炎といった重篤な病態からの回復に用いる方法論の解析が今後とも重要と考えられます。それに関連して、6.岩手医科大学・滝川康裕先生からは、劇症肝炎時の血漿に含まれる肝幹・前駆細胞の増殖誘導シグナルについての発表が行われ、TNFalphaやATP受容体を介したJNKの活性化が肝幹・前駆細胞の増殖誘導に重要なことが報告されました。

 最後に、医学・理学・工学・薬学等の幅広いバックグラウンドの方が集う肝細胞研究会において、基礎と臨床の両方から肝幹細胞・肝障害の再生について議論できる発表をいただきました演者の皆様、シンポジウムに参加いただきました皆様、そして今研究会の会長の榎本克彦先生に感謝いたします。会場の秋田アトリオンホールでは、パイプオルガンのコンサートなど遊び心も満ちた中で活発な議論が行われたと思います。今後とも、複雑な肝臓組織・肝再生過程の細胞・分子レベルでの基礎的理解やその臨床応用に向けて研究が親展することを祈念します。

HP 第17回肝細胞研究会サイト

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