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研究会活動紹介

第15回肝細胞研究会 会長賞を受賞して

鬼塚 和泉
東京大学分子細胞生物学研究所 機能形成研究分野 

 第15回肝細胞研究会一般口演にて「肝臓中皮細胞マーカーの同定と中皮細胞分化過程の解析」というタイトルで発表させていただきました。この研究は、宮島篤先生、田中稔先生のご指導のもと博士課程の研究として行っているものです。最近、肝臓中皮細胞について興味深い知見が得られており、今回会長賞受賞という幸運な結果を得る事ができました。

 肝臓も、他の体腔内の臓器と同様に、中胚葉性の中皮組織に覆われています。けれどもこの組織は、肝臓学の長い歴史においてこれまでほとんど関心を持たれてこなかったと思われます。私たちは胎児肝臓中皮細胞マーカーとして有用な分子を同定し、これを用いて肝臓中皮細胞の発生過程を検討しました。そして興味深いことに、この組織は少なくとも3つの分化段階に明確に区別できる事、また肝発生の初期から出生後まで一貫して、肝臓中皮細胞も様々な増殖因子を分泌し、肝実質細胞の増殖を支持していることを見出しました。つまり、肝臓中皮は肝葉表面を守るシートとしての機能のみならず、臓器形成に積極的に寄与していると言えます。さらに、新生児期には中皮直下の肝細胞が活発に増殖しており、中皮が増殖因子の主な産生源となっている可能性も示されました。出生後の肝臓は、樹木の年輪のように新しい細胞層が外側へ順次積み重なるように成長していくのかもしれません。肝臓のみならず消化器系の臓器の形成は、決して内胚葉性の実質細胞と内部に散在する非実質細胞だけで進められるのではなく、外面を覆う中皮細胞も大きく寄与している可能性が考えられます。胚発生のごく早い時期に運命が分かれた中胚葉性の細胞と内胚葉性の細胞が、密接かつ複雑に相互作用し合って機能的な臓器を形成していく過程は非常に興味深いと思います。

 裏話ですが、本研究ではなかなかポジティブなデータを出せずに、苦労した時間がとても長かったので、宮島先生に多大なご心配をおかけしてしまいました。その分、最近のこれらの発見には心躍る思いです。発表本番はとても緊張しましたが、会場の方々からいくつもの質問をいただき、興味を持っていただけて嬉しかったです。さらに、まさかの会長賞を受賞して、会長の塩尻信義先生から直々に表彰いただいた事は、これまでの苦労が吹き飛ぶような感激でした。今後良い仕事に発展できるよう、ますます気合いを入れて頑張りたいと思います。

HP 第15回肝細胞研究会サイト

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