研究交流
ヒトiPS細胞由来肝臓オルガノイドを用いた体外循環治療システムの開発
米山鷹介
大阪大学大学院医学系研究科 器官システム創生学
1.はじめに
慢性肝不全急性増悪(acute-on-chronic liver failure: ACLF)は、肝硬変などの慢性肝疾患を背景に、感染症や消化管出血、アルコール多飲などをきっかけとして、全身性の炎症を伴って急速な肝機能低下と多臓器不全をきたす疾患である[1]。非代償性肝硬変の患者の最大35%に認められ、28日間死亡率が50%を超えるなど、予後は極めて不良である。肝移植が根治療法となりうる一方、ドナー不足のために、待機期間中に多くの患者が命を落している。また、集中治療管理を中心とした支持的治療が一般に行われるが、肝不全と全身性炎症を根本的に治療する方法は未だ確立されていない。そこで我々は、ヒト肝臓オルガノイドを創出する技術を活用し、肝機能補助と炎症制御を一つの回路で行う体外循環治療システムを開発した[2]。本稿では、治療効果の実証とそのメカニズムについて紹介するとともに、今後の臨床応用に向けた展開についても考察する。
2.バイオ人工肝臓の研究開発動向
バイオ人工肝臓(bioartificial liver: BAL)は、生きた肝細胞を充填したバイオリアクターに患者の血液を体外で灌流させ、解毒・合成・代謝といった肝機能を一時的に補う治療システムである。数十年にわたる研究の歴史の中で、主に肝移植までの橋渡しや、自己肝の再生を待つ間の時間的猶予の確保を目指して、BALの開発が進められてきた。例えば、初期のBALとしてブタ初代肝細胞[3]やヒト肝がん細胞株HepG2[4]を用いたシステムが開発されたが、臨床試験での生存率の改善には至っていない。一方、近年、BALの次世代肝細胞ソースとして、ウイルス導入によって不死化したヒト初代肝細胞や[5]、ダイレクトリプログラミングによって得られるヒト肝細胞様細胞[6, 7]と並んで、ヒトiPS細胞から分化誘導した肝臓オルガノイドが注目を集めている。ヒトiPS細胞は理論上無限に増殖させることができ、臨床応用に必要な大量なヒト肝細胞を供給できる。また、自己組織化によって形成された立体組織構造を有するオルガノイドは、単層培養の細胞や細胞株に比して高い肝機能を発揮する。このような有望な細胞ソースが登場する一方、多くのBALはACLFの病態増悪の原因である全身性炎症を直接コントロールする設計にはなっていないために、治療効果が制限される可能性が懸念されていた。
3.体外全血循環システムUTOpiAの構築
我々は、肝機能の補助に加えて、全身性炎症を抑えることを目的に、ヒトiPS細胞から誘導した肝臓オルガノイド(iPSC-derived hepatocyte-like cell organoid: iHLC)を用いた新たなBALシステムを開発した。具体的には、HLA-A、B、およびCIITAをゲノム編集によってノックアウトし、より広い患者集団への免疫学的適合性を高めたiPS細胞[8]から、我々がこれまでに確立してきたオルガノイド創出法をもとに[9, 10](図1A)、アルブミン分泌、グルコース・尿素産生、ビリルビン取り込みの機能を発現するiHLCを分化誘導した(図1B-E)。iHLCは、生体適合性の高いゲル材料であるアルギン酸を用いてカプセル化することで、物質交換を保ちながらもレシピエントの血球細胞と物理的に隔離した。さらに、iHLCカラムの上流に、全身性炎症疾患に臨床使用されている顆粒球・単球吸着カラム(granulocyte and monocyte apheresis: GMA)を直列に配置した。UTOpiA(Universal Tandem Optimized iHLC with granulocyte and monocyte Apheresis)と名付けた本システムによって、血漿分離を伴わない全血での循環が可能となった(図2A)。

図1 HLA-A, -B, CIITAノックアウトiPS細胞からのiHLCの創出
A) iHLCの分化誘導プロセスの概要図。TKO, triple knockout。
B) TKO iPSC 由来、および野生型(wild-type, WT)iPS細胞由来iHLCの代表的な明視野画像。スケールバー、400 μm。
C) HNF4a、Albumin、F-actin(左、中央)、およびE-cadherin、ZO-1(右)のホールマウント染色像。核をカウンター染色した。スケールバー、50 μm。
D) 培養上清の測定によるアルブミン分泌、ビリルビン取り込み、およびグルコース分泌の定量的分析。ヒト初代肝細胞(primary human hepatocyte, PHH)を比較対照として加えた。平均±SD。
E) WTおよびTKO iHLC、PHH、HepG2 スフェロイドにおける尿素産生。平均±SD。
Yamaguchi, Yoneyama, et al., J Hepatol 2026 [1]から改変して引用。Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)ライセンスにもとづき使用。

図2 アルギン酸カプセル化したiHLCとGMAを用いた体外全血循環システムはACLFラットの生存率を向上させる
A) UTOpiA システムの構成を示す概略図。GMA カラムとアルギン酸カプセル化したHLA-TKO iHLCカラムを直列接続し、ACLFモデル(BDL+LPS)またはALFモデル(D-gal)ラットに対して頸静脈ルートで体外循環治療を行った。BDL, bile duct ligation; D-gal, D-galactosamine。
B) 治療プロトコルの概略図。BDLラットにLPSを腹腔内投与してから1時間後に、UTOpiAを2時間実施した。
C) 無治療 (n=6)、空カラム (n=8)、GMAのみ (n=9)、iHLCカラムのみ (n=4)、GMA-HepG2カラム (グラフではHepG2と表記; n=5)、GMA-iHLCカラム (n=9) で治療したBDL+LPSラットのKaplan-Meier 生存曲線。Mantel-Cox検定およびに続いてBonferroni補正によって検定し、補正後の有意水準 (0.0033) を満たすp値をアスタリスクで示した。
Yamaguchi, Yoneyama, et al., J Hepatol 2026 [1]から改変して引用。Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)ライセンスにもとづき使用。
4.ACLF・ALFモデルラットに対する治療効果
UTOpiAの治療効果を2つのラットモデルによって確認した。まず、胆管結紮術によって作製した肝硬変ラットに対して、リポ多糖(LPS)を投与して急性発症を誘導するACLFモデルを用いて検証した[11] (図2B)。LPS投与後に2時間のUTOpiA治療を行った後、LPS投与後72時間までの生存率を評価したところ、未治療群や空カラム群では10%前後まで低下したのに対して、UTOpiA群では約90%まで改善した(図2C)。この改善はiHLCカラムとGMAカラムを組み合わせたときのみ観察され、HepG2細胞を用いた場合では生存率が改善されなかった。また、UTOpiA治療後、腎障害マーカーの改善、昏睡状態、肝障害、高アンモニア血症、高ビリルビン血症、全身性炎症などの症状が軽減されることが明らかとなった。同様の効果は、D-ガラクトサミン投与による急性肝不全ラットモデルでも認められた。
ACLFラットモデルを用いて治療効果を詳しく調べた結果、UTOpiAによって好中球の肝内浸潤や肝細胞の炎症性壊死が減少することが判明した。さらに、RNA-seqを通じてUTOpiA治療後の肝組織における遺伝子発現の変化を解析したところ、HNF4α依存的な転写プログラムが活性化し、アミノ酸や脂肪酸といった肝代謝が回復することも明らかとなった。
5.オルガノイドから分泌されるAFPを介した肝再生応答の促進
ACLFの重要な病理的特徴の一つとして、肝再生能の低下が挙げられる。そこで、UTOpiA治療後のACLFラットの肝臓における肝再生応答について解析した。治療後に肝細胞の増殖に重要なHGFの血中レベルの上昇が認められた。また、Ki67陽性の肝細胞の増加(図3A,B)、および、細胞周期阻害因子p21陽性の肝細胞の減少が認められ(図3C,D)、UTOpiAが肝再生応答を促進していることが示唆された。

図3 UTOpiA治療によって、ACLFラットの肝再生応答が促進される。
A,B) 空カラムおよびUTOpiA治療を施したBDL+LPSラット (LPS投与後72時間) の肝組織の免疫蛍光染色。核、HNF4、Ki67を可視化した。スケールバー、弱拡大50 μm、強拡大150 μm。Ki67陽性の肝細胞数を定量した。平均±SD。
C,D) 治療プロトコルの概略図。BDLラットにLPSを腹腔内投与してから1時間後に、UTOpiAを2時間実施した。
C) 空カラムおよびUTOpiA治療を施したBDL+LPSラット (LPS投与後24時間) の肝組織のp21の免疫組織化学染色。スケールバー、100 μm。p21陽性の肝細胞数を定量した。平均±SD。
Yamaguchi, Yoneyama, et al., J Hepatol 2026 [1]から改変して引用。Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)ライセンスにもとづき使用。
iHLCの分泌因子が治療効果の発現に機能していることを検証するために、我々はAFP(-fetoprotein)に着目した。AFPは肝細胞がんのマーカーとして知られているほか、がん細胞の増殖促進や周囲の免疫環境を抑制する機能などが報告されている[12, 13]。また、AFPは胎児肝臓において高発現しており、iHLCの最も高い分泌量を示す因子の一つである。iHLC由来のAFPの役割を検証するために、まず、iHLC由来AFPがUTOpiA治療後にラット血中に移行していることを確認した(図4A)。次に、CRISPR-Cas9によってAFPをノックアウトしたiPS細胞を作製し、iHLCへ分化誘導してUTOpiAに組み込んだ(図4B)。ACLFラットモデルに対して適用した結果、野生型iHLCと比較して、肝細胞障害が助長されるとともに、p21陽性の肝細胞が増加した(図4C,D)。さらに、治療後の生存率も低下傾向を示した。これらの結果は、iHLCから分泌されたAFPがACLF病態に対して保護的に機能していることを強く示唆している。

図4 iHLCにおけるAFPのノックアウトによって、ACLFラットにおけるUTOpiAの治療効果が低減する。
A) 空カラムおよびUTOpiA治療を2時間施した後のACLFラットの血漿中におけるヒトアルブミンおよびヒトAFPの濃度。平均±SD。
B) iHLCにおけるAFPのノックアウトの模式図。AFP WTおよびKO iHLCにおけるホールマウント染色。スケールバー、100 μm。
C) AFP WTまたはKO iHLCを用いたUTOpiAを施したBDL+LPSラットの肝組織 (LPS投与後24時間) のH&EおよびTUNEL染色。スケールバー、100 μm。
D) AFP WTまたはKO iHLCを用いたUTOpiAを施したBDL+LPSラットの肝組織 (LPS投与後24時間) のp21の免疫組織化学染色。スケールバー、100 μm。p21陽性の肝細胞数を定量した。平均±SD。
Yamaguchi, Yoneyama, et al., J Hepatol 2026 [1]から改変して引用。Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)ライセンスにもとづき使用。
6. おわりに
以上のように、UTOpiAは肝不全と全身性炎症の双方に同時に対処することで、ACLFを救命することができることを実証した。また、肝細胞ソースの未熟性とみなされがちなAFPがiHLCから供給され、ACLF肝臓の再生応答を活性化することを見出した。このような体外血液循環回路を介したユニークな相互作用にもとづく機序は、内因性の修復促進という再生医療における基盤的な概念に新たな観点をもたらすものである。
一方、本成果はラットでの概念実証であり、この知見を臨床へ橋渡しすることが急務である。我々は現在、臨床グレードのオルガノイドを大規模かつ安定的に製造するためのプロトコルの確立を進めるとともに、大動物試験でのシステムの有効性・安全性の検証に取り組んでいる。これらの課題をクリアし、ACLFをはじめとした死亡率の高い重症肝不全に対して画期的な治療法として実用化できるよう、臨床開発を加速したいと考えている。
参考文献
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