研究交流
類洞内圧亢進による肝線維化進展機序
疋田隼人
大阪大学大学院医学系研究科 消化器内科学
はじめに
ウイルス性肝疾患や脂肪性肝疾患をはじめとする多くの慢性肝疾患では、肝細胞死が持続することで慢性炎症が惹起され、肝線維化が進展し、最終的に肝癌の発生に至る。血清ALT値の上昇は、このような肝細胞死・肝細胞傷害を反映する代表的な指標であり、ALT上昇を認める症例では、背景にある慢性肝疾患の存在や病態進展を念頭に置く必要がある。日本肝臓学会が2023年に発出した「奈良宣言2023」1)は、ALT 30 U/L超を目安にかかりつけ医などへの受診を勧めるものであり、ALT上昇を慢性肝疾患の早期発見につなげる試みである。
一方、うっ血肝ではALTの上昇をほとんど認めなくても、肝線維化が進展し、肝癌が発生する。この点で、うっ血肝は、肝細胞死や炎症を主軸として進展する一般的な慢性肝疾患とは異なる病態進展機序を有すると考えられる。特に、単心室などの複雑先天性心疾患に対して行われるフォンタン術後患者では、心室を介さず、上昇した中心静脈圧によって肺循環が維持される、いわゆるフォンタン循環を呈する(図1)。その結果、肝臓には慢性的なうっ血が生じ、肝線維化や肝癌を含むフォンタン術後肝疾患(Fontan-associated liver disease: FALD)が問題となる。
近年、フォンタン術後患者の多くが成人期を迎えるようになり、長期にわたる肝うっ血の結果として、ALT上昇を伴わない肝線維化の進展や肝癌の発生が重要な臨床課題となっている。FALD診療の手引き2)では、長期フォンタン術後患者は肝硬変・肝癌の高リスク群として位置づけられている。さらに、我々もフォンタン術後患者を対象とした検討において、術後30年時点の累積肝癌発生率が13%であることを報告しており3)、長期フォンタン術後における肝発癌は重要な臨床課題である。しかし、なぜうっ血肝でALT上昇を伴わずに線維化が進展し、肝発癌が誘導されるのか、その詳細な分子機序は十分に明らかではなかった。今回、我々はマウスうっ血肝モデル、圧負荷培養系、ヒトFALD検体を用いて、うっ血による肝病態進展機序を解析したので紹介する4)。
うっ血肝モデルマウスにおけるLSECのCTGF発現上昇
マウスの下大静脈を一定の径に部分結紮することで、結紮部位より上流に存在する肝臓などにうっ血が生じる。この下大静脈部分結紮モデルでは、結紮後に肝組織で類洞の拡張を認め、肝うっ血に伴う類洞内圧の上昇が示唆される(図2)。このマウスでは、うっ血肝患者で経験されるようにALTの有意な上昇を伴わない一方で、肝線維化が進展し、門脈圧が上昇し、48週後には約半数のマウスに肝腫瘍形成を認めた(図3)。
この機序を検討するため、うっ血肝モデルマウスの肝臓を用いてシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)を行い、類洞内皮細胞(liver sinusoidal endothelial cells: LSECs)クラスターに着目して解析した。その結果、Zone 2/3に相当する中心静脈域寄りのLSEC分画において、connective tissue growth factor(CTGF)が最も強く発現上昇する遺伝子として同定された。さらにLSECでは、CTGF発現上昇とともにYAPの活性化、およびYAP/TAZ標的遺伝子群の発現上昇を認めた。
そこで、LSECを含む血管内皮細胞特異的にCTGFを欠損させたところ、下大静脈部分結紮後の肝線維化の進展、門脈圧上昇、LSECの毛細血管化、さらには肝腫瘍形成のいずれも抑制された(図4)。以上より、うっ血肝ではLSECにおけるCTGF発現上昇が、肝病態進展の重要な鍵となることが明らかとなった。
類洞内圧上昇によるインテグリンαV–YAP–CTGF経路の活性化
次に、類洞内圧上昇そのものがLSECに与える影響を検討するため、初代培養マウスLSECおよびヒト肝内皮細胞株TMNK-1を用いて、静水圧負荷培養を行った(図5)。その結果、静水圧負荷によりYAPが活性化し、CTGFおよびLSEC基底膜関連遺伝子の発現が上昇した。これらの発現上昇は、YAP阻害薬の投与やYAP/TAZ発現抑制により抑制された。さらに、インテグリンαV阻害薬であるCWHM-12を投与すると、静水圧負荷によるYAP活性化およびCTGF発現上昇は低下した。これらの結果から、静水圧負荷はLSECのインテグリンαVを介してYAPを活性化し、その下流でCTGFおよび基底膜関連遺伝子の発現を誘導することが明らかとなった。
次に、LSECから分泌されるCTGFの作用を検討するため、CTGFを欠損させたTMNK-1細胞を作製し、肝星細胞株LX-2と共培養して静水圧負荷を行った。その結果、CTGF欠損TMNK-1細胞との共培養では、LX-2細胞におけるCOL1A1発現が低下した。すなわち、LSEC由来CTGFは肝星細胞のコラーゲン産生を促進することが示唆された。
さらに、CTGF欠損TMNK-1細胞にリコンビナントヒトCTGFを添加すると、YAP活性化およびLSEC基底膜関連遺伝子の発現上昇を認めたが、これらはCWHM-12投与により抑制された。したがって、LSECから分泌されたCTGFは、肝星細胞活性化に寄与するだけでなく、インテグリンαVを介してLSEC自身のYAPをさらに活性化する正のフィードバック機構を形成することが明らかとなった。
そこで、下大静脈部分結紮後2週の時点からCWHM-12を4週間投与したところ、LSECにおけるYAP/TAZ標的遺伝子群、CTGF、基底膜関連遺伝子の発現上昇はいずれも抑制された。また、肝星細胞におけるCOL1A1発現も低下し、組織学的にも肝線維化の改善を認め、門脈圧は低下した(図6)。
以上より、類洞内圧の上昇はLSECのインテグリンαV–YAP–CTGF経路を活性化し、LSECの基底膜関連遺伝子発現および肝星細胞のコラーゲン産生を促進することで、肝線維化および門脈圧亢進を進展させることが明らかとなった(図7)。
ヒトFALD肝における空間的検証
最後に、臨床検体としてフォンタン術後患者の肝組織と、コントロールとして正常肝を用いて検討を行った。scRNA-seq解析では、フォンタン術後患者の肝組織において、LSECを含む血管内皮細胞クラスターでCTGFの発現上昇およびYAP/TAZ標的遺伝子群の発現上昇を認めた。
さらに、空間分子イメージャーであるCosMx Spatial Molecular Imagerを用いて、単一細胞解像度の空間トランスクリプトーム解析を行った。その結果、フォンタン術後患者の肝組織では、CTGF発現は門脈域に近いLSECに比べ、中心静脈域のLSECでより高く認められた。また、中心静脈域のLSECではYAP/TAZ標的遺伝子群の発現上昇も確認された。加えて、中心静脈域における軽度線維化領域、すなわちperisinusoidal fibrosis領域と、架橋形成を伴う高度線維化領域、すなわちbridging fibrosis領域を比較した。その結果、pericentral LSECにおけるCTGF発現は両領域で高く認められた。一方で、bridging fibrosis領域では、LSECにおけるCOL4A1/COL4A2などの基底膜関連遺伝子発現がより高く、肝星細胞におけるCOL1A1/COL1A2発現も上昇しており、肝星細胞数の増加も認められた(図8)。これらの結果から、LSECにおけるCTGF上昇は、単に線維化の結果として生じているのではなく、比較的早期から生じ、その後のLSEC基底膜形成や肝星細胞活性化を介して、線維化進展の上流で機能している可能性が示唆された。
以上より、マウスモデルおよび培養細胞実験で得られた「類洞内圧上昇がLSECのインテグリンαV–YAP–CTGF経路を活性化し、肝病態を進展させる」という知見は、フォンタン術後患者を含むうっ血肝患者における肝病態進展機序としても機能している可能性が示された。
終わりに
うっ血肝では、ALT上昇に依存せずに肝病態が進展する。今回我々は、その機序として、類洞内圧上昇がLSECのインテグリンαV–YAP–CTGF経路を活性化し、LSECの毛細血管化、肝星細胞活性化、肝線維化、門脈圧亢進、さらには肝腫瘍形成に関与することを明らかにした。
今後、この経路を標的とした治療により、フォンタン術後患者を含むうっ血肝患者における肝病態進展を抑制できる可能性がある。現在、うっ血肝に対する肝臓を標的とした疾患修飾療法は確立しておらず、インテグリンαV–YAP–CTGF経路は新たな治療標的となり得る。
一方、類洞内圧の上昇はうっ血肝に限らず、進行した肝硬変患者でも認められる。実際に、C型非代償性肝硬変では、ウイルス排除後も肝予備能が十分に改善しない症例が存在する5)。したがって、一部の肝硬変患者においても、類洞内圧上昇に起因するLSEC病態が肝疾患進展に関与している可能性がある。今後は、今回明らかとなった機序が、うっ血肝以外の慢性肝疾患や肝硬変における病態進展にも関与するのかを検討していきたい。
参考文献
- 日本肝臓学会.奈良宣言2023特設サイト.https://www.jsh.or.jp/medical/nara_sengen/ 2026年7月7日閲覧.
- 日本肝臓学会,日本成人先天性心疾患学会,日本小児循環器学会編, FALD診療の手引き, 南江堂; 2025年.
- Sakamori R, Yamada R, Tahata Y, Kodama T, Hikita H, Tatsumi T, Yamada T, Takehara T. The absence of warfarin treatment and situs inversus are associated with the occurrence of hepatocellular carcinoma after Fontan surgery. J Gastroenterol. 2022 Feb;57(2):111-119. doi: 10.1007/s00535-021-01842-8.
- Kato S, Hikita H, Tsukamoto O, Sato K, Kamizono K, Sasaki Y, Fukumoto K, Myojin Y, Murai K, Tahata Y, Makino Y, Saito Y, Kodama T, Motooka D, Kobayashi S, Yokoi H, Mukoyama M, Kubota Y, Tatsumi T, Eguchi H, Takehara T. Activation of the Integrin αV-YAP-CTGF Axis in Liver Sinusoidal Endothelial Cells Promotes Liver Fibrogenesis, Leading to Portal Hypertension and Liver Carcinogenesis in Congestive Hepatopathy. Gastroenterology. 2026 May;170(5):1000-1016. doi: 10.1053/j.gastro.2025.11.014.
- Tahata Y, Hikita H, Mochida S, Kawada N, Enomoto N, Ido A, Yoshiji H, Miki D, Hiasa Y, Takikawa Y, Sakamori R, Kurosaki M, Yatsuhashi H, Tateishi R, Ueno Y, Itoh Y, Yamashita T, Kanto T, Suda G, Nakamoto Y, Kato N, Asahina Y, Matsuura K, Terai S, Nakao K, Shimizu M, Takami T, Akuta N, Yamada R, Kodama T, Tatsumi T, Yamada T, Takehara T. Sofosbuvir plus velpatasvir treatment for hepatitis C virus in patients with decompensated cirrhosis: a Japanese real-world multicenter study. J Gastroenterol. 2021 Jan;56(1):67-77. doi: 10.1007/s00535-020-01733-4.


















