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研究会活動紹介

シンポジウム1「肝構成細胞の発生と分化」を企画して

西川祐司
旭川医科大学病理学講座腫瘍病理分野

 第17回肝細胞研究会の第1日目に静岡大学理学部 塩尻信義先生とともに発生・分化のシンポジウムを企画させていただきました.以下にシンポジウムの内容をまとめさせていただきます.

 最初に,田中稔先生(東京大学分子細胞生物学研究所)に各種肝構成細胞の表面マーカーの探索とモノクローナル抗体を用いた分離法について概説していただくとともに,特に中皮細胞の分化過程と肝細胞増殖における役割,胎児肝造血のニッシェについての最新のデータを解説していただきました.次に肝構成細胞の分化増殖における内皮細胞の役割について,横内裕二先生(熊本大学 発生医学研究所),塩尻先生にお話しいただきました.横内先生はニワトリ胚において,内皮細胞と肝芽細胞がNeurturin,Wnt9a,Angiopoietin-like protein family 3などの分子を介して細胞移動や増殖を相互に調節していることを示されました.塩尻先生はマウス肝初期発生において内皮細胞増殖がVEGF‐Flk-1シグナリングにより制御されていること,内皮細胞は肝細胞,星細胞,Kupffer細胞の増殖に重要な役割を担い,その相互作用には内皮細胞または星細胞から分泌されるHGFが関与していることを示唆されました.次に西川が胆管の発生について,肝内胆管の形成がalbuminを発現する幼若肝細胞の分化転換として理解できることを示し,肝外胆管の上皮列に幼若肝細胞が組み込まれ,肝外胆管と肝内胆管の連続性が確立されていく過程を報告しました.最後に,紙谷聡英先生(東京大学医科学研究所)がE13マウス胎仔肝から肝芽細胞(CD133陽性,Dlk陽性細胞)を採取し,mouse embryonic fibroblastsをフィーダー細胞として低密度で培養すると,効率よく肝細胞へと分化誘導できることを示され,肝幹/前駆細胞の増殖・分化に間葉系細胞との相互作用が重要であることを示唆されました.

 以上の発表は,肝発生過程において,肝(芽)細胞,胆管上皮細胞,内皮細胞,星細胞,中皮細胞,造血細胞などがそれぞれの増殖および分化を調節し合う精緻なメカニズムが存在することを示しています.肝細胞とそれを取り巻く非実質細胞の密接な相互関連が,新しい手法の導入により分子レベルで解明されつつあることが実感されました.

 「肝細胞は孤ならず,必ず隣有り」は,市原 明先生が1990年に書かれた,雑誌「肝胆膵」の「分離培養細胞を用いた肝研究」特集の巻頭言のタイトルですが,その言葉の重みは20年の時を経てさらに増しています.肝構成細胞の時空的な関わりを総合的に理解することは,非常にchallengingな課題ですが,発生学,生理学の解明とともに,肝疾患の病態の解明と治療法の開発にも欠かせないことだと思われます.

 最後になりましたが,実りあるシンポジウムを実現することができ,会長の榎本克彦先生,演者の皆様,ご参加いただいた会員の皆様にこの場をお借りして心よりお礼を申し上げます.

HP 第17回肝細胞研究会サイト

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